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トップの輪 経営者が語る企業経営とIT化

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老舗ののれんを支えるのは、ITと「攻め」の経営哲学

第4回は、小田原市で創業以来、140年もの伝統を誇る老舗・鈴廣かまぼこの鈴木社長にご登場いただきました。

鈴木 博晶氏 鈴木博晶
鈴廣かまぼこ株式会社 代表取締役
1977年、鈴廣蒲鉾工業株式会社 入社。1996年、鈴廣かまぼこ株式会社代表取締役に就任、現在に至る。全国蒲鉾連合会流通広報委員会委員長、小田原蒲鉾協同組合理事。
社是「老舗にあって老舗にあらず」に込めた気骨

Photo---優しい旨み。しなやかな歯ごたえ。なめらかなのどごし。さすが、御社の蒲鉾はひと味違いますね。

 食品添加物に頼らず、魚本来の旨みと風味を最大限に引き出すのが鈴廣の基本姿勢です。そのため、原料の段階から自社による品質管理を徹底しています。

 たとえば、練り製品の原料のひとつに、輸入した冷凍すり身があります。この業界では、水産会社から既製品を卸してもらうのが普通です。しかし鈴廣では、海外にもパートナーを確保し、自分たちの製品に合わせて専用のすり身を加工してきました。日本に水産練り製品の企業は数あれど、ここまでしているところは、決して多くはないでしょう。

---まさに、老舗ならではの「こだわり」ですね。

 その「こだわり」という言葉、私はあまり好きではないのです。もともとは「固執する」「小さな問題にとらわれる」といった、ネガティブな言葉ですよね。その意味では、むしろ「こだわりがない」といった方が、私たちのスタンスによっぽど近いんです。

 鈴廣の社是をご存知ですか?「老舗にあって老舗にあらず」。基本を重んじつつも、昨日と同じことはしないこと。新しいことに積極的にチャレンジすること。それが鈴廣らしさだという、先達の教えです。

 たとえば、工場に近代システムをいち早く取り入れる、ガラス張りにして見学者を受け入れる。地ビールが楽しめる「箱根ビール蔵」、4つの食事処を擁する「千世倭樓(ちょうわろう)」をオープンする。先ほどの海外パートナーの開拓も、そんなチャレンジの一例に過ぎません。

---伝統を継承しつつも、「攻めの経営」を忘れない。失礼ながら、老舗という言葉からはイメージできませんでした。

 もちろん、根底には私たちのコア・コンピタンスがあります。それは、「魚の栄養を人に伝える」ということ。そのために、もっと何かできることがあるのではないか。もっと、世の役に立つことができないか。いつもこのテーマが頭から離れません。おかげで、去年と同じことを繰り返していると不安になるというか、落ち着かないんですよ(笑)。

出発点は「マーケットは自分で創る」という発想

Photo---御社の積極的なビジネス展開。リスクを考えれば、普通、なかなかできないことだと思うのですが。

 もちろんリスクは大きいし、コストもかかります。でも、鈴廣グループのリーダーとして、私がすべき仕事は何かと問われれば、それは「20年後、30年後の世界を思い描き、その対策を“今”打つこと」なんです。もちろん「今」も大切ですが、それだけを見てチャレンジを怠っては、鈴廣ののれんを未来に残すことはできません。

---その将来の読みと戦略。同じ神奈川でビジネスを営む者として、とても興味をひかれます。

 ひとつの事実として、今、国内の練り製品の消費量は、かつての半分近くにまで落ち込んでいるんです。そのうえ、人口減少や高齢化は進むばかりですし、環境問題による海洋資源の減少も、火を見るより明らかです。

 そのような時代に向け、需要を開拓するにはどうしたらいいか。それが私の発想の原点になります。

 布石としては、新製品の開発があげられます。最近では、若い世代の人が手軽に魚タンパクを摂れるよう、すり身を加工した「フィッシュケーキ」という製品を誕生させました。これは、東京・代官山の直営店で販売をはじめたばかりで、今後が楽しみというところです。さらに、高齢者にも魚タンパクが摂りやすい「魚肉ペプチド」も世に送り出していきます。良質なアミノ酸たっぷりのサプリメントとして、スポーツをたしなむ方にもぜひオススメしたい製品です。

---さながら、食の世界の仕掛け人、とお見受けしました。

 ぜひ、そうなりたいですね(笑)。マーケットは自分で創り上げるものだというのが、私のモットー。市場に対して自ら積極的に働きかけることが大切だと考えています。そのためには、需要があるから製品を作る「マーケットイン」ではなく、需要を創出する「プロダクトアウト」の発想が欠かせません。確かにリスクはあるし、コストもかかるやり方ですが、これが経営者として私に課せられた使命だと信じています。

140歳の老舗は、IT化の先駆者でもある

Photo--老舗と呼ばれる企業は、一般にIT化が遅れがち。つい、そんな先入観を抱いてしまうのですが…

 鈴廣に限っては、それは当たりません。私たちがITに着目したのは、もう30年以上も昔。まだパソコンという言葉もなく、オフコンと呼ばれていましたっけ。そのオフィスコンピュータを導入し、基幹業務の処理に活用しました。

 実は、これが大変な話だったんですよ。鈴廣ではすでに売店やレストランを経営しており、多業種の基幹業務に一括して対応できるアプリケーションが必要でした。でも、満足なものは、当時はまだなかったんです。そこでオリジナルのアプリケーションを開発するところからスタートしなければなりませんでした。

---そんな苦労をしてまで、IT化に踏み切った理由は、何だったのでしょうか。

 やはり、新しいことにチャレンジする気風でしょうね。そのつもりでアンテナを張り巡らせているうちに、コンピュータというキーワードがひっかかったわけです。技術系の人材を採用するなど、組織レベルで導入を進めました。

 私は、ITの真価は「省脳化」にあると思います。機械にできることは、機械にまかせればいいじゃないですか。人間の脳は、もっとクリエイティブな仕事のために使うべきです。

---老舗ののれんの奥で、いち早くそのような努力が行われていたとは存じませんでした。

 基幹業務だけではありません。お客さまからも便利だと思われるような、ITのうまい使い方についても早くから模索していました。

 20年前、お得意様向けのDMに「昨年は、どなたにお歳暮やお中元を贈ったか」、宛先を印字してお知らせするようにしたんです。もちろん、私たちとしては、どんな商品を贈ったかもコンピュータで把握できる環境を整えていました。しかし当時は、企業が個人の情報を蓄積することに抵抗のある方も多かったので、宛先以外の情報は伏せたわけです。これが、いざ実施してみると大好評。データベースマーケティングが当たり前になる、ずっと以前の話です。

---まさにIT活用の先駆者というわけですね。

 それからパソコンの時代になり、クライアント-サーバー型が主流になり。そのつど、システムを迅速に見直し、現在に至っています。

 こうなるとネットワークの品質がとても重要。今はNTT東日本のメガデータネッツを活用しています。安定性と速度に不満はないのですが、近いうちにフレッツ網に切り替えようと計画中です。

時代は変わり続ける。ボケてなんかいられない
---御社のIT化に、まだまだ満足なさっていないご様子ですね。

 むしろ、もっと努力をしなければいけないと思っています。というのも、昨年の夏からインターネットでの問い合わせや注文が急増。ホームページへのアクセスも増えています。一般消費材についても、ようやくインターネットがBtoCビジネスの土壌になった…そんな手応えをつかんできたところです。

---インターネットを通じて、マーケットはどのように変化してきているとお考えでしょうか。

 はっきりわかるのは、価値観や行動スタイルの変化ですね。たとえば、昨今の皆さんは行楽に出かける前に、インターネットで情報を収集し、しっかり計画を練ってからお出かけになるようになっています。

 言い換えれば、今のお客様は情報で動くわけです。このような時代では、企業の情報発信力がますます強く問われます。積極的に情報を発信していかないと、すぐに取り残されてしまうわけですから。

 そのためには、以前とは比べようもないほど努力が必要ですよ。私がよく言うのは、「昔の一は、今の千」。たとえ同じ効果を得るにしても、以前の千倍の努力が必要、という意味です。

---これからのIT活用についても、もう具体的な設計図を描いていらっしゃるとお見受けしました。

 たとえば、直営の売店やレストランは、非接触式ICカード内蔵携帯電話(おサイフケータイなど。)や電子マネー(Edyなど。)に対応させないといけません。さらには、そこから得られるお客さまの情報をマーケティングに反映させる仕組みも必要でしょう。

小田原の「進取の気性」を守り続けたい

Photo---これまでのお話を通じて、御社は単なる老舗にとどまらない、むしろ新進のベンチャー企業のような印象を受けました。

 もともと小田原は、進取の気性が持ち味だったんですよ。ただ、豊かな自然に囲まれているうち、いつの間にかそのような気性や活力が、この地から失われてしまっているのではないか…そんな気がして、危惧しています。

---心から小田原を愛していらっしゃる。その思いが、ひしひしと伝わるお言葉です。

 ここは、すばらしい土地です。新緑の箱根は、それはもう目が覚めるような美しさです。一方では、客観的な目で都会やITの動きを見つめられるメリットもあります。だからこそ、バランスの取れた発想が可能になるのではないかと、私は思うんです。

---本日は、興味深いお話をたくさん伺え、目からウロコが落ちる思いです。お忙しいところ、本当にありがとうございました。

取材を終えて

鈴木代表取締役は終始明るい笑顔を絶やさずご対応いただきました。
『常に20年〜30年先の鈴廣のあるべき姿に想いをめぐらせている』というお言葉に、老舗でありながら挑戦者の心を持ち、未来を見つめる真摯な姿勢をつくづくと感じた次第です。
お忙しい中、快く取材に応じていただいた鈴木代表取締役をはじめ、関係の方々に心より御礼申し上げますとともに、今後ますますのご発展をお祈り申し上げます。

株式会社NTT東日本−神奈川 西湘営業支店 久保田 信一、松本 芳明


CompanyOutline 会社概要
鈴廣かまぼこ株式会社
慶応元年(1865年)に創業。蒲鉾を中心とした水産練り製品の製造・販売から、直売店・レストラン経営など6社からなる鈴廣グループの製造部門を一手に引き受ける中核企業。蒲鉾業界の地位向上と神奈川県下のスポーツ振興にも力を入れる、小田原蒲鉾の顔ともいえる老舗。
 
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