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高度なモノづくりを支える精密金型は几帳面で真面目な日本人の得意技

第6回は、綾瀬市と秋田県湯沢市に工場をもち、世界的評価の高い精密金型メーカー・タミーマシナリーの高橋社長にご登場いただきました。

高橋健氏 高橋健
株式会社タミーマシナリー
代表取締役
1951年東京都出身。1973年、三井金属鉱業入社。金型関連の企業に出向し、長年にわたり精密金型づくりに関わる。1996年、三井金属鉱業を退社。タミーマシナリーの再建に携わる。日本金型工業会理事としても活躍中。
精密金型は、ミクロン精度の品質が生命線
フェルール金型

---金型は日本の高度経済成長を支え、いまもモノづくりを支える産業の源といわれていますね。

 ご存じのように戦後の日本は製造業を基盤に発展してきました。そうした製造業のあらゆるモノづくりに欠かすことのできないのが金型なんです。全ての金型メーカーが一ヵ月間休業したら、名だたる日本の大企業はおろか日本銀行も危ないかもしれません。(笑)勿論冗談ですがそのくらいに影響力はあると思っております。金型メーカーは、当社を含めて企業規模はそう大きくないところがほとんどですが、技術水準は世界でもトップレベル。もっと誇りをもっていいと思います。

---金型づくりでも、中国や東南アジアの追い上げが急だと聞いていますが。

 金型業界でもそういう議論が席巻していますし、確かに数としての海外生産は増えています。ですが、金型づくりに求められるのは、品質と低コストと納期。この三つがキチンと守られて当たり前の世界です。ことに、当社の作っているようなCD-ROMやDVD-ROM、ブルーレイ用ピックアップベース金型※1や光ファイバーコネクタに用いられるフェルール※2のような精密機能部品向け金型は、品質の作り込みが生命線といっても過言ではありません。精密金型の分野では、要求される品質を全てクリアする必要があり、90点の出来で量産に持ち込むことはできません。当社でさえ、お客様にしかられながらですから、その部分において信頼できる金型メーカーは、まだ中国や東南アジアにはそう多くはないのが実情です。

---中国や東南アジアの精密金型技術は、まだ日本に追いついていないということですか。

 技術が追いついていないというより、精密金型づくりには日本人がもつ几帳面さと真面目さが不可欠ということなんです。ハイテク技術はお金で買えますし、現に中国に行くとわれわれがほしいなと思う高価な機械や最新の機械をたくさん見かけます。3次元CAD/CAMを駆使して、金型作りをある意味で装置化したようなモノづくりでは、正直負けるかもしれません。でも、例えば金型を使って製造される部品が100分の1ミリの精度を要求されるとしたら、金型自体に許される誤差は精々1000分の2か3。文字通りミクロン作業です。出来上がった金型をあと数ミクロン修正しなければならない精密金型では、決してそこから逃げない真面目さと几帳面さが何より重要なんです。私は、精密金型づくりは「心の産業」だと思っています。失敗と経験を積み重ねながらチームワークで製作し、100点満点を実現させていく仕事ですから、失敗するとクビになる、ノウハウを一人占めしたがる、1年間で30%も人が入れ替わるといった文化の国では非常に難しいと思います。

光コネクターフェルール 光ファイバーコード

 もちろん、日本でも優秀な工作機械とソフトによって金型づくりは進歩していますが、すべてがまかなえるわけではありません。求められる品質毎に日本と中国や東南アジアを使い分けていくお客様が賢いと思います。

「発展途上人」の集団だから、決して「逃げない・手を抜かない」
(上)光ピックアップ金型 
(下)光ピックアップ使用例

---御社がつくられる金型のなかには世界トップシェアの製品があると聞きましたが。

 先程申し上げたデータ向けピックアップ用金型では金型専業メーカーとしては現在最も多くの金型を作っていると思います。また日本以外で生産されている光コネクタフェルールのほとんどは当社の金型を使用しています。

---それだけのシェアを持っておられる決め手はなんですか。それだけ優れた技術者が多いということでしょうか。

 むしろ逆ですね。一般的に金型づくりは職人芸のように言われますが、当社の主力工場である秋田工場は平均年齢31.4歳で平均勤続年数は7.5年です。金型づくりは4〜5年やっても半人前ですから、社員の3分の1は新入社員レベル。職人どころか数年前までは金型なんて見たこともないという人たちがほとんどで、まだ発展途上人の集まりです。

---発展途上人の集団で、それだけ優れた製品をつくれるというのは驚いてしまいます。どうしてそんなことが可能なんですか。

 当社の特色は設計にしても製造にしても、決して妥協しないところですね。いま「技術」という言葉が出ましたが、「技術」とは結果を導き出すための方法論であり、その優劣は劇的に大きいと思います。一方、「技能」は経験が生み出すもので上手か下手か、早いか遅いか、ということだと私は思っています。残念ながら当社には他社に秀でた差別化された特別な「技術」が有るとは思っておりません。ですから、要領は悪いですが当社のモットーは技能においては「決して手を抜かない」、技術では「決して裏切らない」ということです。秋田の県民性もあるのでしょうか、とにかく工場のメンバーは本当に粘り強く、妥協せずに取り組んでくれていますね。前にちょっと遅れ気味の仕事があって、得意先の方が工場にこられたことがあるんです。最初は激怒されていたんですが、仕事ぶりを見て「すまなかった。こんなに一生懸命やってもらってるとは思わなかった」。私もメンバーたちの努力にはアタマが下がりますし、心から感謝しています。

 もちろん、発展途上人ですから、失敗も少なくありません。失敗は経験則として次の糧になる、今回5回失敗したら次は4回にすればいいというのが私の考え方なんです。毎朝、「誤作報告書」が工場から送られてくるんですが、かなりな量になります。費用換算すると結構膨大な額ですから、経営者としては渋い顔になる(笑)。でも、繰り返しになりますが、いまはまだ会社も人も発展途上。決して逃げない・手を抜かない・裏切らないに徹していくことが何より大切だと思っています。

ITは、距離の差を埋めるツールの一つ

---ITの発展はモノづくりにも大きな影響を与えていると思いますが、金型業界ではどんな変化がありましたか。

 納期が厳しくなった(笑)。金型は簡単に言えばたい焼き器の器のようなもので、いまでも需要の約半分は20年前と同様の製品です。ただし、スピードが違う。10年前には設計に2カ月半要したのが、IT化によって現在は2週間でできるようになりました。その分、納期が短縮されたのは事実ですが、お客様との間でのデータのやりとりもスピーディに行えるようになりました。リードタイムが圧倒的に短縮されましたね。

---社員のIT環境整備やホームページの充実にも力を入れておられるそうですね。

 仕事の効率化や情報共有のためにITは欠かせないビジネスツールですから、5年程前に何人かの社員にパソコンを半ば強制的に配布し買わせました(笑)。ホームページについては、実のところさほど重視していなかったんですが、台湾を訪れて意識が変わりましたね。当社のPRをしようと台湾の会社に電話をしたら、まずホームページのアドレスを教えてくれと言われた。ホームページを見て、アポイントメントを受け入れるかどうか判断するんですね。台湾に限らず、韓国や中国でも同様です。ホームページはいわば会社の顔、信頼できる会社かどうかの判断基準の一つになるわけですから、これはちゃんとつくらなければいけないと思いました。

---テレビ会議システムの導入も検討されていると伺いましたが。

 今後特に力を入れていきたいのは、コミュニケーションに関わる部分ですね。人間には良く見せたい・失敗は言いたくないという気持ちがありますから、日常的なコミュニケーションが不足していると、どうしても誇張と省略に思惑といった心理が働いて勘違いが生じやすくなってしまいます。現在はパソコンを使って毎日、昼食後に本社と秋田間で納期確認会議を開いていますが、顔を見ながら話す機会をもっと増やしたい。距離の差を埋めるツールとして上手く活用していきたいと思っています。

10年後にいる社員で、10年後の会社を考える

---不況業種といわれる金型製造業のなかで御社が順調に発展されている理由が理解できたように思います。

 この10年間、収益面でも持続的に成長してこられたのは幸運でしたが、それも社員がついてきてくれたからできたことです。実を言うと、私は前職を退職したら自分で会社を起すつもりでいました。それがある事情で社長を引き受けることになり、抜本的な建て直しを図ることになった。苦しい時期を乗り越え、お客様や社会から評価を得るまでになれたのは、社員の支援と彼らの生真面目さのおかげですよ。

---評価をさらに高めるためには、何が必要だとお考えですか。

 当たり前のことですが、企業は成長しつづけていくことが大切です。私はいま54歳ですが、10年後には社長の座を下りているはずです。むしろ、世代交代を進め、「誰が社長になってもキチンとやっていける会社」にしたいと思っているんです。世の中の変化は早いですから、何が起こるかわからない。10年後には精密金型が海外で生産できる時代になっているかもしれません。10年後にどうありたいのか、そのためにはどうしたらいいのか、いま考え、できることから取り組んでいくことが大事なんです。今春、「10年委員会」をつくったのは、そのためです。

 具体的に言いますと、「10年委員会」でビジョンを考える資格をもつのは、10年後も当社にいる人。ですから、私も資格がない(笑)。10年後もいる人が、10年後にタミーマシナリーと自分たちはどうありたいか、目標を定めます。その目標を実現していくためには、5年後にどうなっていなければならないかを、いまの経営陣を含めて一生懸命考えます。そして、そのためにいま何をするのか、全員で一緒に考え、決めていくんです。「10年後にどうありたいか」、社員からどんなビジョンが出てくるのか、とても楽しみにしています。

---製品づくりという意味でも、新しいモノに挑戦していかれますか。

 もちろんです。例えば、半導体製造用のパーツのなかにも、金型がないため特殊な製法でつくらざるを得ないものもあります。そこをカバーする精密金型ができれば、製品の精度もアップしますし、コスト的にもメリットがでてきます。政府は今年を「モノづくり元年」とし、金型製造を基盤技術として予算措置を嵩じました。金型業界にとってはめったにないチャンスですから、業界の発展のためにも新しいことに挑戦していきたいと思っています。

---日本のモノづくりのためにも、ぜひ成果に期待しています。本日はどうもありがとうございました。

取材を終えて

タミーマシナリー様は、少数精鋭で若々しくとても元気な会社で、弊社も多くを学ばせていただいております。
特に、精密金型産業は心の産業であり、決して「手を抜かない」という態度に、産業や企業経営の本来あるべき姿をみた思いです。
ご多忙中の折、貴重なお時間を割いていただいた高橋社長に御礼申し上げるとともに、「モノづくり元年」の日本の産業の牽引役として、ますますのご発展をお祈り申し上げます。

株式会社NTT東日本−神奈川 湘南営業支店 田島 聡明


CompanyOutline 会社概要

株式会社タミーマシナリー
ピックアップベースや光ファイバーコネクタ向けをはじめとして光学機器・医療器・OA機器など、精密金型を設計・製造する専業メーカー。社員数約60名規模ながら、世界シェア50%を超える製品をもつなど、技術力とモノづくりへの真摯な姿勢では定評がある。神奈川県綾瀬市の本社工場と秋田県湯沢市の秋田工場を両輪として稼働中。
 
→会社情報

※1:ピックアップ
CDやDVDなどの光学ドライブでデータの記録や再生を行なうためのレーザー光源および受光部。

※2:フェルール
光コネクタの中で光ファイバーを保持、固定する円筒形の部品

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